〈花様年華〉2022/05/29 ジミン
机の上に薄い光の筋が落ちた。きっと予備校の名前が書かれた窓を開けて入ってきた光だった。講義室の前では講師がマイクを持って大声で喋り散らしていたが、僕の耳にはなかなか入って来なかった。僕は予備校の一番後ろの隅っこの席で顔を伏せ、指の間に抜ける光の筋を何とか捕まえてみようと足掻(あが)いていた。
病院から出て来たからと言って何かが解決したわけではなかった。むしろ原点から何歩か後退した気分だった。高校の卒業証書もなくどうするのか、検定試験の予備校でも通わないといけないのではないかという母さんの言葉に押されるように、予備校に向かったのもそんな理由からだった。言い返す言葉がなかった。今の僕はしたいことも、できることもなかった。
予備校向かう間ずっと心臓が締め付けられた。勉強を始めることも負担だが、見知らぬ人たちのなかに居なければならないのが何よりも怖かった。誰かが僕を覚えていればどうしよう。なぜ高校を卒業出来なかったのかと尋ねでもされたら何と答えようか。記憶の向こうに追いやっていた学校での時間が恐ろしく浮かんだ。
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