Your Sweet Night

主に防弾少年団と韓国語の勉強。(ときどき他ドルも)

〈花様年華〉2022/04/11 テヒョン


f:id:purple1765tae:20200420214219j:plain


黒のスプレー缶で線を描いた。やつれた顔、言葉を失くしたような口元、パサついた髪。夢で見た顔が雑な線で灰色の壁に姿を現し始めた。今は瞳を描くところだった。僕は手を伸ばしてはやめ、一歩後ろに下がった。


頭の中の顔は鮮明だった。瞳もやはりゾッとするほどはっきりしていた。それなのに、どうやって表現すればいいのか分からなかった。嬉しさや悲しさのような感情がすべて揮発(きはつ)され、無関心と冷たさだけ残った瞳。それは数多くの色でもあり、ただ一つのすり潰された色で、何も話さずむしろもっとたくさん話をするような目だった。僕は何度かスプレー缶を持ち直したが、結局瞳を描くことは出来なかった。


ソクジンヒョンを最後に見てから二年が過ぎた。アメリカに行ったという話は聞いていたが、それ以外は何も知らなかった。ヒョンが夢に出てくるのも初めてだった。時々どうしているのか考えたことはあった。僕たちの教室であったこと、ヒョンが校長と電話をしていた瞬間を思い出したりもした。ヒョンに対しては良い思い出も、理解できないこともあった。けれど、そのどんな瞬間でも夢の中に現れたことのように冷たく干からびた姿ではなかった。


壁に描かれた顔をもう一度見上げてみた。明らかにソクジンヒョンだった。しかし、僕が知っているヒョンではなかった。なぜ突然そんな夢を見たのか。その夢は不吉で酷(むご)い場面の連続だった。ヒョンはそのすべての不幸を感情のない顔で眺めていた。僕はスプレー缶を握った手を落とした。夢で感じたその寒気が、再び首筋を引っ張る気分がした。遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。



.