Your Sweet Night

主に防弾少年団と韓国語の勉強。(ときどき他ドルも)

〈花様年華〉2022/05/10 ホソク

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気がつくと橋の上を歩いていた。太陽が眩しくてまともに目を開けれいられなかった。僕が何故ここまで来たのか。考えたが目まいがして視野がぐらぐらした。膝が折れるかと思ったら、橋を行き来する車のクラクションの音が耳元に響いた。視線の片隅に日向の真っ黒な川の水が見えた。


児童養護施設のおばさんは、母さんが居なくなった僕が初めて頼れた人だった。熱に苦しみ目が覚めた深夜、養子縁組で出て行った子を見送ったあとのガランと空いたベッド、ナルコレプシーの発作で病院で目覚めたとき、小学校の入学式から高校の卒業式まで、僕のそばに居てくれた人がおばさんだった。


そんなおばさんが病気にかかった。平凡にかかってきた電話の声は児童養護施設の弟のものだった。どうやっておばさんの家まで行ったのかはよく思い出せない。覚えているのはおばさんの家、空いたドアの向こう側に見えた顔だけだった。おばさんは誰かと話を交わしては笑い声をあげていた。具合が悪いということ、手術を受けなければいけないということ、希望があまりないということすべて嘘のようだった。一瞬目が合うところだったのを、辛うじて身を潜めた。顔を見れば涙があふれると思った。おばさんまで僕を捨てて行くのかと、恨み言を吐き出しそうだった。足を運んだ。誰かが呼んでいるような気もしたが、振り返らなかった。


大型バスが風を起こしながら僕のそばを通り過ぎた。母さん。遠くなるバスを見ながら呟いた。母さんと別れた日、あの日もあんなバスに乗っていた。おばさんも母さんのように僕のそばを離れるのか。僕はまた大切な人を失うのか。顔を上げると日差しが降り注いだ。そうして、世界が崩れ始めた。タイヤがアスファルトを踏み、通り過ぎる摩擦音と川に沿って吹いて来る風、おばさんと一緒に過ごした沢山の思い出がその日差しの中で崩れた。僕は地面に倒れた。



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